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住宅

有限会社井坪工務店

代表取締役社長  井坪寿晴 氏

■業界の概要と企業の概要

昭和40年、大工の職人が集まって木造住宅の職人集団として設立された井坪工務店。お客様の思いとこだわりを形にし、創業以来50年、今でも設計・大工と30人以上の職人を社員に抱え、地域で信頼を築き長野県南部で多くの木造住宅を建築してきた。

現在は時代のニーズに合わせた事業展開も行い、コンパクトでライフスタイルを実現する家づくりをコンセプトにしたfine事業部や、ライフスタイル提案型のショップなど新たな事業も手掛けている。

■事業と強みと今後の展開

木造住宅の「技」を受け継ぐ「大工」は年々減少

少子高齢化で世帯数が減少し、その住宅を建てる大工も減少しています。1985年には約80万人だった大工の就業人口は、2010年には約40万人と半数にまで減少。2020年には更に半数の約21万人にまで減少するという予測も出ています。

特に、15~19才の「若手」と言われる人材を見ると、1995年の1万9444人から2005年には5282人と10年で4分の1にまで減少しています。

このように住宅業界では職人の減少が著しく、「技」を継承する若手も少ないため、工場で家を建てるような住宅営業会社が中心となっているのが現状です。

「大工」を社員にして職人を育成

住宅業界では大工は外注契約である場合が多いですが、弊社では大工を社員として雇っています。若手の大工も多く、技の継承・想いの共有に力を入れ、職人育成に会社として責任を持って取り組んでいます。

外注の職人もいますが、その職人にも私たちの思いとルールを守っていただくために、「認定資格者修了証」を交付しています。想いとルールを共有した職人集団であること。それが私たちの強みです。

また、よいお寿司が「ネタと職人と薬味で決まる。」と言われるように、弊社でも「材料」にも強いこだわりがあります。それが常時約6000本をストックしている、檜などの木材です。

この木材は、卓上でカタログを見て選ぶのではなく、必ず材木の展示会に行って、職人が目利きをして材料を仕入れています。大量に仕入れるのでいい材料が安く手に入り、また自社で管理するので適正な自然乾燥で管理できます。

通常、木造住宅は強制乾燥した材木を使うことも多いのですが、自然乾燥した材木なら木の本来の強さや粘り、しなやかさが活かせます。こうしたよい材木を使うことが、いい家づくりには欠かせません。

材木の目利きは、今までの経験と知恵の積み重ねの賜物です。1300年続く大工の知恵を活かした材木選びや管理もまた、弊社の大きな強みの1つと言えるでしょう。

「ありがとう」が言える、言われる人間に

創業者の父はよく、「一度家を建てたら、親戚のようなお付き合いをしたい。」と話していました。私自身も、それは強く感じています。

そこで弊社では、お客様と親戚同様にしっかりお付き合いをしていくためにも、「ありがとう」が言える人間、言われるような人間になることを評価基準としています。

社内ではそれを浸透するために、「ありがとうスピーチ」とか「ハイタッチで朝礼」、「心得とお客様への誓い」の唱和など、ベタなことですがそれを愚直にやっています。

経営計画発表会でも、お客様に「ありがとう」と言っていただいた話を共有して、評価も職務評価だけでなく「ありがとうカードの数」や、「気持ちよい挨拶ができていたか。」など理念を体現する行動を評価の対象としています。

お客様や周囲のメンバーから、「ありがとう」と言ってもらえるようにするにはどうしたらよいか。それを社員1人1人が考え、行動できる会社を目指しています。

リーダーも周囲を「ありがとう」でまとめる存在に

「ありがとう」は言ってもらうだけでなく、自分から言うことも大切です。だからこそ、弊社では現場のリーダーは周囲に「ありがとう」を言いながら矢面に立ち、まとめていく存在となっています。

こうした社風となったのは、「棟梁選挙」の制度が影響しています。これは私が26~27才の専務時代に始めたものでした。当時私は大工として働いていましたが、その頃の「棟梁」は雲の上の存在で、現場ではNo.2の人材が若手の面倒を一生懸命見て、皆をまとめてくれていました。

現場のマネジメントの歪みに違和感を持ったことから、自らのリーダーを自分たちで選ぶ「棟梁選挙」を発案しました。選挙の結果、若手の育成をしていたNo.2の人材が選挙で棟梁になったのです。

しかし選挙に敗れたNO.1の棟梁たちは、全員会社に残り、今までのNO.2の下で若手育成に力を注いでくれました。NO.1の大工をマネジメントする立場だからこそ、新棟梁は周囲に気を配るマネジメントをするようになりました。そしてNO.1の大工が教えたことで若手の育成も進み、現場の雰囲気がよくなり、人工も縮まるという好循環が生まれました。

人の上に立つ棟梁とは、お山の大将ではなく、皆に「ありがとう」を言いながら矢面に立つ存在。こうしてそんな風土ができ、今に至っています。

伝統の知恵と技はありますが、職人気質の気難しい棟梁はいません。簡単な仕事ではありませんが、夢や誇りを持って家づくりをしたいなら、それが叶えられる環境だと思います。

職人の目利きや知恵を活かして更なる展開を

今後はより高耐久で、高品質な家をお客様にお届けできるよう、注文住宅セレクトモデルを開発しようと考えています。

さらにアフターサービスを強化していきます。現在、年間1000件以上の案件に対応していますが、そのノウハウを必要な関係部署で共有して、問題が発生する前に対応する「ビフォーサービス」に変えていきたいと思っています。そのためにも、アフター会議は毎週行って情報共有し、技術力の高い職人も配属して力を入れています。

さらに今後はリフォーム需要の増加も見込まれますので、メンテナンス方法を紹介する「お手入れセミナー」などを定期的に実施しながら、コストを抑えた使い勝手のいいリフォームを提案していきたいですね。

他にも職人の目利きを活かしたセレクトショップも展開していきたいと考えています。現場で積み重ねた職人のノウハウと知恵、目利きの力を活かして、それをお客様のニーズに合うように上手く展開していきたいと考えています。

■求める人材像は・・・

休日も「ありがとう」を拾ってくるような生き方を

弊社で求めているのは、正直で真面目な方です。家を造り、売る仕事は人間力が全てなので、正直で真面目であることがやはり一番大切です。

人って、仕事とプライベートをそんなに境目をきっちりと分けられるものではないと思っています。仕事でも「ありがとう」をもらえるような生き方を推奨するからこそ、休みの日でも「ありがとう」を言ってもらえるような生き方をしていないと、自分に対して正直でないし、苦しいでしょう。

弊社で目指しているのは、「仕事ができる人間」ではなくて、「世の中のためになっているような人間」です。それには、休みの日も仕事の日も関係ありません。そんな思いに共感してくれる方とぜひ一緒に働きたいと思っています。

■ウィルウェイズが語る、エピソード オブ "社長"

地域密着型の工務店で、2代目3代目として家業を継ぐ。弊社では、そんな若手社長に多くお会いしてきました。大手ゼネコン勤務や建築設計の経験を積んで、家業を継ぐケースが多いのですが、井坪社長は「大工出身」。そのキャリアに「昔から大工に憧れて...。」というストーリーがあったのかと思いきや、真相はその真逆でした。

「最初から大工をやりたかったわけではないんですよ(笑)。むしろ、最初は嫌でした。見習い大工ですから朝から晩まで働いても給料は安いし、遊びたい盛りに休みも少なく、父ともよく衝突していました。」

井坪社長が抱いていた、「大工」への反発のような思いを一転させたのは、ある出来事がきっかけでした。

「ある時、100年以上も経つ旧家の建て替えがあったんです。建て替えの前に宴席で、日に焼けて武骨な施主さんが末席の見習い大工の私にもお酒を注ぎに来てくれて、『大工さん、よろしくな。』と私の手を取り、涙を流すんです。盃を受ける手が、思わず震えてしまいました。

その後、『あの人、俺のこと大工さんと呼んどった...。』と先輩に言ったら、『大工には何年目だと名札があるわけじゃないから、当たり前だ。』と言われ、初めて自分の仕事の重さを実感したのです。自分よりも年上の大先輩が人生をかけてきたものを、預けてもらえる仕事なんだなと。

お客様に泣いて頼まれて、その上お金をもらって感謝してもらえる。大工ってすごい仕事だと思ったのです。生きている中で、泣いてもらってお金もらえる仕事なんて、そうはできませんから。」

井坪工務店では、今でも新入社員は大工の仕事からスタートします。大工の仕事は確かに楽ではないかもしれません。しかしそれは、モノづくりのまさに「最前線」の仕事。職人の技術や知識を継承し、「家」にかけるお客様の思いを肌で感じ、お客様に最も感謝されるかけがえのない経験となるでしょう。

※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。(2016年3月)

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