王滝村
村長 瀬戸 普 氏
■王滝村概要
平安時代から独自の山岳信仰が生まれ、全国から登山者が集まる霊峰・御嶽山。その御嶽山の入山口にある人口約850人の村・王滝村。かつては破綻が懸念された財政状況も、現在は健全化に向かっている。
御嶽山登山やスキーやキャンプなど観光を主な産業としていたが、2014年の御嶽山の噴火により厳しい影響を受け、登山やスキーだけではないアウトドアスポーツの聖地を目指した取り組みが進んでいる。
■王滝村の産業の特徴
村の87%が国有林...森林の中にある村
王滝村は村として長野県第1位の面積(全国でも第11位)があり、そのうち87%が国有林で「国有林の中にある村」といえます。
この日本一のヒノキの美林が広がる森林資源を活かし、古くから林業が栄え、「木曽ヒノキ」は高級材として伊勢神宮の遷宮の際にも使われてきました。昭和30~40年代には村民の労働人口の約半数が林業に従事していましたが、国の国有林事業の収支が昭和50年代に悪化したことから組織改編が行われ、王滝村からも事業撤退がありました。
これを機に林業従事者は減少し、村の過疎化に拍車がかかりました。現在では、林業を展開する事業会社は3社のみとなっております。
御嶽山の山岳信仰を支える観光業が主要産業
林業衰退後、御嶽山に抱かれる王滝村では、御岳信仰を支える関連サービス(宿泊サービス、飲食関連、山岳ガイド等)が主要な産業となりました。御嶽山に簡単に登れるようになったのは200年ほど前からで、2014年の噴火までは全国から多くの登山客が訪れていました。
噴火以降、御嶽山は入山規制がありますが、御嶽山以外にもスキー場やキャンプ場などの観光資源もあり、最近では自然を生かしたマラソンやトレイルランニング、マウンテンバイクやヒルクライムなどアウトドアスポーツの振興にも力をいれています。特に国有林の林道を生かしたトレイルラインニングには毎年1000人の参加者が集まり好評をいただいており、今後はトレイルランニングの聖地を目指していきたいと考えています。
現在では、何らかの形で観光に携わる住民が約7割と、観光が村の主要産業となっています。地域おこし協力隊にも活躍していただきながら、この自然と土地柄を生かした産業やサービスの可能性も模索していきます。
■雇用促進・定住促進に向けた取り組み
ICTを活用したテレワークで場所を選ばない働き方を提案
王滝村では総務省のふるさとテレワーク推進のための実証事業に採択された「住みよい信州×わーく²プロジェクト」の一環で、長野県と共にICTを活用した働き方の実現を進めています。
古民家を修繕したワークスペースに都市部から移住したエンジニアが滞在し、都市部の仕事をそのまま地方で続けられることを実証するものです。
またこれに併せ、教育サービスを提供するプロジェクトを進めています。村では都市部に比べて、どうしても教育を受ける機会に差が生じてしまいます。そこで、この教育格差を解消すべく、県内で教育サービスを展開する信学会と連携し、村内の中学生がタブレット端末を活用して学習塾の授業を受ける「遠隔授業」の取組を開始しました。
この事業を機に他のテレワーク案件も実現し、古民家を活用しながらICTを活かして雇用と地域活性を生み出していければと考えています。
■移住者が王滝村を選ぶ理由
自然を生かし1年中楽しめるアウトドアスポ―ツの聖地へ
王滝村には「人が住んでいない場所がたくさんある」という良さがあります。今はその良さを生かして、トレイルランニングやダートマラソンなど新たな価値が生まれています。
御岳信仰の麓でパワースポットであることや、国有林内のため人家がない300キロの林道等の自然環境を生かし、アウトドアスポーツが1年中楽しめる「アウトドアの聖地」としての可能性が王滝村にはあります。
また、山岳地形を生かしたヤギや羊などの山岳畜産や、バイオマス発電などを村外から提案いただくこともあります。
地域おこし協力隊のある隊員は、「月収100万円も月収20万円の仕事も、やりがいを感じられれば、それは同じ。価値観が違うだけ。」と言っていました。最寄りの高速ICまで1時間半という立地ですが、その環境だからこそできる新たな産業やサービスを模索していく楽しさややりがいが、あるのではないでしょうか。
■担当者が感じる「王滝村に住む・働く」の魅力とは?
年に4回は御嶽山へ...山は眺めているだけでも飽きない
今は噴火の影響で入山規制がありますが、私も昔から御嶽山には何度も登り、若い頃は山岳ガイドもやっていました。噴火前までは毎年4回登っていましたので、御嶽山のことはだいたい頭に入っています。私の子ども達も皆御嶽山に登り、山が好きになりました。だからこそ、今回の噴火は非常に残念に思っています。
今でも暇さえあれば山に行っていますが、山はいいですよ。何もせず、ただ眺めているだけでも飽きません。私は木こり仕事も大好きで、自分で木を切り出して、製材して、小さくてもいいから自分の家を建ててみたいと考えることもあります。
いつかはピレネー犬を何頭も飼ってみたいとも考えますが、それも空いている場所はたくさんあって、人が少ないからこそできる良さではないかと思います。
「20代集まれ!」で飲み会ができるのも村だからこそ
(王滝村役場 総務課 総務係 立花沙代香さん)
私自身、村に若者は少ないと思っていましたが、先日記憶を元に数えたら40人ほどいることがわかりました(笑)。進学で村外に出て私のように戻ってきた人がほとんどですが、3割ほどはIターンの方です。
自分たちで思っている以上に若者がいるじゃないかということで、「20代の皆で飲み会をやろう!」と盛り上がり、村に1軒の食堂で飲み会を開催しました。「20代」という年齢だけの繋がりで約20人が集まったのですが、都市部では年齢だけの共通点ではなかなか集まれないですよね。
この機会で、小中学校時代にランチルームで一緒に給食を食べていた、年齢の離れた先輩や後輩とも改めて仲良くなり、また地元出身者とIターンの方々との交流の場ともなりました。第2回もお蕎麦屋さんを貸し切って開催され、早くも「またやろう。」という話で盛り上がり、村の20代に新たな絆が生まれ、広がりました。
都市部で多くの人がいても、人と深く交流する機会があるとは限りません。人が少ないからこそお互いを大切にして仲良くなれるのは、人口の少ない村ならではの良さだと感じています。
※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。(2015年9月)