伊那市
商工観光部 商工振興課 商業労政係 係長 山下 隆さん
■伊那市概要
南アルプスと中央アルプスに抱かれ、天竜川と三峰川が流れる自然豊かな街・伊那市。
「日本三大桜名所」として知られる高遠城址公園の桜を始め、仙丈ケ岳や南アルプス国立公園、スキー場や温泉施設など観光資源も豊富な一方、南信地域のものづくり産業の拠点として製造業も盛んである。
かつての高遠藩の藩校「進徳館」は、教育界に多くの人材を輩出し、「教育県・長野」の礎の1つとなった。脈々と受け継がれる独自の教育的風土は現在も残り、子育て世代の移住希望者にも大きな魅力となっている。
■伊那市の産業の特徴
東京・名古屋と2つの大都市圏へのアクセスの良さを生かし
伊那市は、東京へ2時間半、名古屋へ2時間と2つの大都市圏のほぼ中間に位置し、双方にアクセスのよい交通のメリットがあります。この地の利を生かし、電気、精密、機械などの加工技術産業がいくつもの工業団地を形成しています。加工技術産業以外にも、伊那食品工業を始め、健康長寿関連の食品加工業も発展しています。
元気な地元企業も多く、部品製造などを手掛ける企業が協力して、「地元企業で地元のお土産を作ろう」という「製造業ご当地お土産プロジェクト」もあります。このプロジェクトに象徴されるように、地元の企業同士、力を合わせて盛り上げていくような風土があると思います。
また、以前から地域の雇用拡大のため、企業誘致に力を入れており、特に東日本大震災以降は、従来の気候条件の良さに加えて災害リスクの低さから、リスク分散を目指す複数の企業の誘致に成功しています。
昨年度には、企業誘致のための「三本の矢」として、「用地単価の見直し」の他、「用地取得補金助制度」「分譲制約報酬制度」も新設し、さらに誘致を強力に進められるよう動いています。
■雇用促進・定住促進に向けた取り組み
(商工観光部 商工振興課 商業労政係 主査 那須博文さん
商工観光部 商工振興課 工業振興係 主事 登内絢也さん)
若年層の雇用促進に向け、市の補助金で企業を支援
伊那市独自の取組として、若年層の雇用促進に向け、昨年から企業向けの補助金制度をスタートさせています。これは、25歳以下の若者を1年間正規雇用し、引き続き雇用の見込みのある企業(中小企業基本法に規定する従業員300名以下の中小企業)に対し、雇用した者1名につき、5万円を支給するものです。
現在、15社程から申請がありますが、今後も採用の拡大に向け企業に働きかけていきます。このような企業支援で、1人でも多くの若者がUターンで戻りやすくなるように、就職の間口を広げていきたいと考えています。
空き家・空き店舗の利用支援など移住者のための財政支援も
移住者には、生活基盤確立のため財政支援も行っています。高遠町区域・長谷区域・新山地区を対象に、住宅新築等補助金(最大150万円)や、定住助成金(定住1年以上で1世帯10万円程度)などの他、空き家や空き店舗を活用した方への補助金もあります。
財政支援以外にも、子育て支援センターや、保育園の送迎、学校の時間外などに子供を預けたい方などをサポートする「ファミリー・サポート・センター」など子育て支援も整えています。
伊那市では、専任の移住・定住コーディネーターを窓口に、ワンストップで住居から就職まであらゆるサポートができる体制となっています。担当部署だけでなく、市役所全体で「移住定住促進のために各課で何ができるか」を考え取り組んでいますので、各課で連携した情報提供や施策で移住希望者の力になりたいと考えています。
新宿までバス送迎も...学生へのUIターン情報発信も強化
また学生へのUIターン情報の発信としては、県外の大学でUIターン促進のための求人紹介や、銀座NAGANOでの企業説明会、また「いなっせ」での企業説明会を開催しています。
特に「いなっせ」での企業説明会は、より多くの学生に参加していただけるよう、新宿まで無料の送迎バスを運行しました。送迎バスも20数名の方にご利用頂き、157名の方に参加いただきました。今年も8月に開催します。皆様のご参加を心よりお待ちしています。
地元企業との連携で工業技術を学べる新規短期大学校も
さらにものづくりの人材育成の一環として、平成28年4月には「長野県南信工科短期大学校」が開校されます。この短期大学校の活動を支援するため地元企業が中心となって南信工科短大振興会を設立し、産官学連携で地元企業に就職する技術ある学生を育てることを目指しています。
伊那市周辺には工業系の高校も多く、学生がさらに技術を習得して、卒業後に早く一人前となって活躍できるよう新たな教育の場にしていければと思っています。
■移住者が伊那市を選ぶ理由
農林業の体験や地域一体のキャリア教育など特色ある教育
豊かな自然に魅力を感じて伊那市を選ぶ移住者の方が圧倒的に多いのですが、子育て世代には「特色ある教育」も大きな要素となっています。
例えば、小規模特認校に指定されている新山小学校は全校の児童数が30名程で、地元の人とキノコ採りをしたり、自ら育てた野菜を給食で食べたりと、独自の教育を行っています。小規模特認校の新山小学校だけでなく、市内の小中学校では農業体験や林業体験が教育カリキュラムに含まれていて、土と触れ合う機会が多くあります。他にも、昔から伝統的に通知表や時間割がない、伊那小学校もあります。
また市内中学校では、「キャリア教育」の1つとして地元企業での職業体験を行っています。生徒は職業体験をしたい企業をリストから探し、自ら電話をかけて体験を申し込むので、そこから「社会体験」が始まります。これは生徒に仕事の現場を知ってもらうだけでなく、地元企業を知り地元を好きになってもらうきっかけにもなっています。
このように子どもたちが、社会的、職業的に自立した大人になるよう、長期的な視点に立ち地域全体で子供の成長を応援する取り組みの1つである「キャリア教育」が、伊那市では平成26年度に、全国市町村では9つのみの文部科学大臣表彰を受賞しました。地域と協働した質の高いキャリア教育が、全国から注目されています。
伊那市には、幕末から明治にかけて教育界に多くの人材を輩出した「進徳館」があったこともあり、このような独自の教育文化があります。これが、「自然の中でのびのびと子どもを育てたい」と考える子育て世代に支持して頂いています。
「子育て世代にピッタリな田舎部門」で全国1位に
豊かな自然や独自の教育文化を背景に、伊那市は宝島社が2015年2月に発刊した「田舎暮らしの本」で、日本「住みたい田舎」ベストランキングの「子育て世代にピッタリな田舎部門」で全国1位に選ばれました。
移住された方からも、「自然がいっぱいだけど、市街地へのアクセスがよく都会からの移住者にも暮らしやすい」との声を頂いています。
また、移住するためには「仕事」の確保が欠かせませんが、市内の地元企業からパートを含め常に100件以上の求人があり、就農に関しても市の農政課とJAが共同で支援しています。自然環境だけでなく、生活の場として就職面や教育環境面が充実していることも、移住者に選ばれる理由だと考えています。
■担当者が感じる「伊那市に住む・働く」の魅力とは?
(商工観光部 商工振興課 工業振興係 主事 登内絢也さん)
自然に惹かれて訪れて知る温かな人柄に、住み続けたくなる街
恵まれた自然を理由に伊那市への移住を検討される方は多いですが、「実際に来てみて自然はもちろん、人柄の良さに惚れた」という方も非常に多くいらっしゃいます。
伊那市には、「あげ性」といって、道を尋ねに来た見知らぬ人に「畑で野菜が採れたから持っていって」と野菜をくれるような、そんな特徴があります。
私自身、父親が転勤族だったため幼少の頃より県内を転々としましたが、伊那市の市民性はとても朗らかで、大人でも横断歩道を渡った後にお辞儀をするような礼儀正しさがあり、温かさを感じます。
信州大学農学部のキャンパスがありますので、全国各地から学生がやってきますが、「伊那の人柄に惚れた」とそのまま伊那市で就職する方もとても多いのです。
「移住しても分け隔てなく接してもらえる」と多くの移住者の方もおっしゃっており、地域に馴染みやすいことも魅力の1つだと思います。
※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。(2015年7月)